決算時以外に会社の業績がどうなっているのか、また、自分の認識と会計税務上の利益が合っているか、定期的に確認出来ている方は中小企業では多くは無いのではないかと思います。
その要因として、記帳を毎月行っていない、見ても良くわからない、把握する為のルーチンが出来上がっていない等が挙がるかと思いますが、把握する事によって得られる情報も多くありますので、見方と見ることで得られる情報を解説させて頂きます。試算表から得られる情報が有意義だと感じて頂き、定期的に会計ソフトへの入力が出来る体制を作る必要性も感じて頂けますと幸いです。
1.試算表の見方
1-1.見るべき資料
多くの資料を確認するとなると、なかなかまとまった時間が確保できなかったり、後回しになったりしてしまいがちです。そこで、まず最初に見るべき資料としては以下の2つだけに絞って頂くことをお薦めします。
(1)月次推移:損益計算書
(2)試算表:貸借対照表(期首~入力完了月)
いずれも、どの会計ソフトでも必ず出力できる資料ですので、経理担当者や記帳を依頼している税理士へ、定期的に以下2つの帳票をPDFで出力して送ってもらうか、クラウド型の会計ソフトでしたらご自身でログインしてブラウザ上での確認も可能です。以下は会計freeeの場合のサンプル画像になります。
1-2.資料の意味
(1)月次推移:損益計算書では、月別の売上発生状況と利益に影響を与えている経費を把握します。ご自身の認識と合っているか、認識と異なる場合にその要因を把握することが重要になります。
(2)貸借対照表(期首~入力完了月)では、資金繰りに影響を与えている項目、今後与える項目を把握します。難しそうで内容はシンプルですので、後述する具体的な見方までお付き合いいただけますと幸いです。
1-3.具体的な見方
1-3.(1)月次推移について
損益計算書については月別でご覧いただく事をお勧め致します。純粋に売上と経費そして残る利益が月別に並んで表示されますので、会計の知識が無くともご確認頂く事が可能です。最重要項目となる利益は『営業利益』の金額をご確認ください。ただ、営業利益のみではその構成要素が把握出来ず、翌月以降に活かすの情報として有用ではありませんので、以下のような順でのご確認をお勧め致します。
①売上高の確認
月次推移でご確認頂く順番としては、まずは売上高です。こちらが月別に認識と合っているかどうかが重要になります。通常試算表の段階では請求書通りに計上されているかと思いますが、認識とズレる場合には、会計上で該当月の売上高に集計されている内訳を見る形になります。集計された金額の詳細は、総勘定元帳で確認が可能ですし、取引先別に表示することも可能です。
②営業利益の確認
次に営業利益になります。営業利益は売上高からその月の経費を除いた残りの金額になりますので、純粋な事業としての利益という事になります。月別に見て毎月プラスであれば、第一義には問題ないという事になります。ただ実際は経費に計上されていない支出がある点にご留意ください。例えば借入金の返済がある場合には毎月の返済額を超える営業利益が出ていることが、資金面でプラスになる為に必要になりますので、後述の『1-3.(2)試算表:貸借対照表(期首~入力完了月)について③借入金の増減、残高』と合わせてご確認頂けると必要な月間利益を把握する事が可能になります。
③経費項目の確認
そして、販売費及び一般管理費の項目について上記で営業利益を月別に見た際に、他の月と比べて大きい月、小さい月がある場合で、かつ、変動の原因が売上高ではない場合には、販売費及び一般管理費に原因が有るはずです。例えば、従業員への賞与の月であったり、備品を購入した月であったりと、原因のイメージが付くかどうかが重要です。
その後、月毎の経費の推移をみます。その際には、金額の大きいものや重要なものから見て頂くと分かり易いかと思います。この際、見たい経費がどの勘定科目に集約されているかが分からない場合には、入力した人に確認頂くのが良いかと思います。その上で、毎月同額で発生するはずの経費がそのように発生しているかどうかを確認します。例えば地代家賃は本来毎月同額が発生することになります。
上記で推移を確認した上で、認識と異なる増減がある場合には、売上の時と同様に該当科目について入力した人に内訳を確認する事が一番確実ですが、会計ソフトへログイン可能でしたら、数字をクリックするとそのまま総勘定元帳にて内訳まで見る事が可能です。
上記により、営業利益を中心として、必要な営業利益が計上されている月とされていない月を確認し、どのコストによってそれが大きく影響されているかを確認する事が可能です。
また、最近ですと少額のウェブサービスを多数申し込んでおり、合算すると高額になっていて驚いた、などという発見も多いようです。
④営業外項目の確認
最後に、営業利益より下に表示される当期純利益までの間の数値ですが、借入金の利息等が一般的には入りますが、その他は助成金の入金等、あまり頻繁には出てこないはずの部分になります。もし金額が入っている場合には内容を把握しておきましょう。
如何でしょうか。売上高に対して経費が現状どのように発生して、必要な利益を想定すると必要よな月間売上高がイメージ出来るようになったのではないでしょうか。その上で、利益を最大化するために少なく出来る経費までイメージできた場合には、試算表を確認した意味は大きいと考えてよいと思います。
1-3.(2)試算表:貸借対照表(期首~入力完了月)について
月次推移:損益計算書を見た後は、試算表の貸借対照表を確認します。試算表にも損益計算書がありますが、月次推移の累計になりますので、情報としては月次推移と同様である点と、会計上の貸方、借方の表示になっており、見ずらいかと思いますので、試算表は貸借対照表のみを確認するのが良いと思います。
貸借対照表での確認項目は、大きくは以下の通りです。
①売掛金の増減
試算表の貸借対照表では、一番左に前期末残高、そこに対する増加と減少の2列があってその右に、対象月末残高が表示されています。会社の売上の入金の形態にもよりますが、例えば月末締め翌月末支払で請求書を出されている場合であれば、対象月の売上高が残高として残ることが通常になります。売掛金の残高が大きい場合には、未回収がある場合等もありますので、取引先別に残高を確認して頂いても良いかと思います。取引先別残高は試算表に直接は表示されませんが、会計ソフト上で確認可能です。
前述の通り、前期末残高、増加(売上)、減少(回収)、残高で表示されますので、例えば、増加はあるのに減少がない場合には、入金が滞っている事になります。先方の振込忘れの他に、請求書の出し忘れもあり得ますので、ご確認頂く事項になります。
②買掛金、未払金等債務の増減
買掛金、未払金等の債務も売掛金と同様の見方になります。異常に増加、減少していたりする場合には、その要因を把握する必要があります。増加している場合には、今後支払うものになりますので、その分のキャッシュアウトが有ることを意味しますので、内容が思いつかない場合には、相手先別の残高を確認しましょう。
③借入金の増減、残高
返済状況や残高を改めて確認する作業になりますが、借入金は必要利益の把握や、今後の追加借入等に際しても重要な判断材料ですので、動きと残高を確認しましょう。また、借入金の返済は経費ではありませんので、支出を伴うものの上述の月次推移損益計算書には表示されず、貸借対照表にて借入金の減少として表現されます。経費にならない支出の代表例ですので、資金繰りを考える際には利益に借入金の返済を加味する必要がある点ご認識頂ければと思います。
④固定資産の増減
会計上では一定のルールで支払ったものの一部が固定資産として計上されます。基本的には10万円以上の備品であったり、保証金等ではありますが、会計処理方法が複数認められているものもありますので、現状どのように処理したうえで、先ほど見た月次の営業利益になっているかを確認しましょう。こちらは、営業利益を月別に把握した際の違和感として、『経費が少ない』と感じた場合、固定資産が増えている、という事も多いので、月次推移と合わせてご確認頂いても良いかもしれません。
また、固定資産に計上されたものの中では、決算時に償却として会計上の経費になるものがあります。決算の最終予測時には必要になるものですので、決算整理を入力する方に該当するものがあるかどうかを確認しておくことをお勧め致しますが、固定資産自体が少額の場合や、前期末から増加していない場合には、気にしなくとも大丈夫かと思います。
⑤今後の資金繰りへの影響
貸借対照表に計上されているものは、損益には反映していないものの、今後の資金繰りに影響するものがほとんどです。上記で把握した内容が来月以降の資金繰りに与える影響を把握するのに非常に役立ちます。
例えば売掛金が増加しており、増加の理由が売上の入金サイトが長い顧客との取引が始まった事であれば、入金が遅くなりますので、取引規模が大きくなると資金繰りを悪化させます。月次推移でみた営業利益に対して、入金はもっと遅くなりますので、必要な営業利益が増えると共に、運転資金の借入等の対策を検討する必要が出てきます。
以上にて、月次での試算表の確認は終了です。意外と簡単、と感じて頂けたのではないでしょうか。初回は資料の出力方法含めて少し戸惑うかもしれませんが、毎月実施している方ですと、見る時間は10分もあれば十分で、不明点の確認に対する回答をどれだけ早く得られるか、という課題にたどり着くのではないかと思います。
2.お薦めの月次ルーチン
ここで、重要なポイントとしましては、お一人で時間を確保して毎月の試算表を確認することは、お忙しい中では難しいという点があります。特に、最初の時に1人で見ていると、どの経費がどの勘定科目に入っているのかが分からず、自分で確認するのも大変で、途中であきらめてしまいがちです。そこで、入力を実施した人又は顧問税理士等の知識を有する方と一緒に時間をとってご確認頂く事をお勧め致します。具体的には、毎月〇営業日、又は第〇週〇曜日に、というような形で確認の時間を決めて、入力担当者又は顧問税理士と打ち合わせの時間を確保して確認することで、正確な情報を短い時間で、かつ、ルーチンとして毎月確認することが可能になりますので、是非一度顧問税理士にご相談頂く事をお薦めいたします。
こちらの月次チェックを行っていくと、より詳細に見やすく資料を見たくなる可能性があります。また、業種により必要な情報も異なることとなりますので、より掘り下げて試算表を確認されたい方には、次の記事も用意していますので、是非ご覧くださいませ。
基礎の上級 試算表の見方【追加項目】