<当シリーズ共通>
会社を経営していると、体感としては『資金的な余裕が無い』『なかなか預金残高が増えない』にもかかわらず、決算を税理士に依頼すると、予想を遥かに超える税額を伝えられて、『いやいやそんなはずはない』と感じた経験がおありではないでしょうか。本記事では、このような事態が発生する要因をお伝えすると共に、事前に把握する方法をご紹介させて頂きます。今後の資金繰り計画を策定する際であったり、節税対策や納税額の予想の際にお役立て頂ければ幸いです。
なお、ここでいう赤字については、厳密な月損益における赤字ではなく、実際に問合せ多い、『体感的な赤字』にフォーカスを合わせていますので、つまりは資金繰りの観点からの赤字を意味しています。業種に関わらず影響のある事項については、赤字なのに税金が高い 導入編にて詳細を記載していますので、ご参照頂ければ幸いです。
【飲食店編】
今回は飲食店の資金繰りと納税について解説していきます。飲食店の事業の特性から特に納税額に影響を与える事項としては以下のようなものがあります。
・人件費が大きい
・設備投資による消費税額の変動
・現金取引による一時的な資金繰りの余裕
・設備投資と借入金
・人件費が大きい
飲食店の場合、お店を運営する為には『人手』が必須になりますので、必ずある程度の人件費が必要になります。人件費が大きい会社の場合、消費税の納税額が高額になる傾向があります。それは、消費税が売上等によって受け取った消費税から支払った消費税を控除して納税額を算定しますが、人件費には消費税を乗せて支払いませんので、経費のウチ人件費部分については、控除できる消費税が無いためです。
税抜金額 | 消費税額 | 税抜金額 | 消費税額 | ||
---|---|---|---|---|---|
仕入 | 400 | 40 | 売上 | 1,000 | 100 |
経費 | 300 | 30 | |||
人件費 | 300 | 0 |
利 益 1,000 – 400 – 300 – 300 = 0
消費税額 100 – 40 – 30 – 0 = 30
つまり、仮に売上から経費を差し引いた営業利益がゼロであっても消費税の納税額はゼロにはならず、人件費×消費税率分の納税は発生する事となります。飲食店の場合ですと店舗の内装工事や改装の為に借入をしている可能性が高いので、営業利益がゼロの場合、借入金の返済分手元資金は減っている事となります。にもかかわらず消費税額が発生しますので、体感としての利益に対して消費税額を大きいと感じてしまう事となるわけです。
・設備投資による消費税額の変動
上述の通り、飲食店の場合店舗の内装工事や改装に際して多額の設備投資が発生します。この設備投資について、借入をして実施する又はリース契約などにより実施する事が多いため、設備投資時に手元資金を多額に支出することは少ないのではないかと思います。
そして、設備投資時には消費税を乗せて支払っているため、設備投資を実施した年は消費税の納税額が大幅に削減される傾向があります。
こちらが、体感としての利益と消費税の納税額を乖離させる要因となっています。下図のように、仮に前年度に店舗の内装変更を行った場合、前年度の消費税額は設備投資全額に対して発生した消費税額分の消費税節税効果が発揮され、本業からの消費税納税額が1,200であった場合そこから設備投資に含まれた消費税額1,000が控除され、納税額は200となります。一方で、翌年以降は借入金の返済が開始し、設備投資関連での支出が始まるものの、設備投資に伴う消費税の節税効果は既に教授済みですので、本業が同一水準とすると1,200の納税がそのまま発生する事となります。結果として本業の利益以外に発生する資金繰りとして、設備投資を行った前年度は△200に対して、当年度以降は△2,300分の資金繰りへのマイナス効果が発生することとなるのです。
前年度 | 当年度 | 翌年度 | |
設備投資額 | △11,000 | 0 | 0 |
借入金額 | +11,000 | 0 | 0 |
借入金返済額 | 0 | △1,100 | △1,100 |
設備投資関連支出 | 0 | △1,100 | △1,100 |
消費税額(本業) | △1,200 | △1,200 | △1,200 |
消費税額(設備投資額×10%) | 1,000 | 0 | 0 |
消費税納税額 | △200 | △1,200 | △1,200 |
資金繰り | △200 | △2,300 | △2,300 |
支出を△にて表示しています。
その結果、資金的にはマイナスにもかかわらず消費税額が高いと感じたり、去年に対して納税額が高いと感じる事が多くなってしまうわけです。
・現金取引による一時的な資金繰りの余裕
税金が高いと感じる要因としては、手元資金と比較して高額の時にそのように感じる事が多くなるようです。お客様から代金を現金で受け取る商売を行っている事業者の場合、売上に対して現預金が増えるまでの時間が短い(又はゼロ)ため、本来手元資金には余裕ができやすい傾向にあるはずです。しかし、早く手元の現金が増える場合、その増える分を既に織り込み済みで支払の計画を立ててしまっていることも多くなっています。
つまり、仕入や経費の支払いは翌月末で、売上代金回収が早い場合、利益がゼロであっても手元には常に1ヶ月分以上の経費を支払えるだけの資金が残るはずです。しかし、手元に資金がある場合にはそれを使ってしまう、というと計画性が無いかのような表現になってしまいますが、心にゆとりが生まれて財布の紐が緩くなることは至極当然のことだと思います。財布の紐が緩くなるという表現を使いましたが、無駄遣いを意味しているのではなく、飲食店の場合、備品の買い替えや一部内装工事、又は2店舗目を検討し始める等、事業を発展する為の支出等、次の展開への資金へ充てる事も含んでの表現になります。
その結果、1ヶ月分の資金の余裕を常に維持することは出来ず、現金で回収した売上は即座に支払に充てられてしまう事も多いかと思います。その結果、税理士から消費税の納税額を伝えられると、多額で驚く、という事も多くなっているように見受けられます。
最近は、クレジットカードやキャッシュレス決済等飲食店においても支払い手段が多様化されていますが、売上から入金までのサイクルがどんどん短くなっており、最短翌日等の表現も当たり前になってきていますので、現金取引では無くとも上記の事象は生じやすくなって生きているかと思います。
・設備投資と借入金
最後に、必ず出てくるのが借入金の返済額です。こちらについては、既に計算の中に含めている方も多いかと思いますが、借入金の返済額は経費ではないと共に消費税の納税額計算上控除出来るものではありませんので、借入金の返済額を超える利益が出ていない限りは手元の資金は減っていく傾向にあり、体感としては赤字と感じる事も多いかと思います。
特に、借入金の返済額に少し足りない利益が出ている場合には、法人税と消費税共に発生してきますし、上述の通り人件費が大きい飲食店では特に消費税額は大きくなる事になります。