今回はEC、卸売業の資金繰りと納税について解説していきます。EC、卸売りの事業の特性から特に納税額に影響を与える事項としては以下のようなものがあります。

・在庫金額が大きい

・セール等による利ざやの低い売上の発生

・借入金の返済額

・在庫金額が大きい

まず、昨今のECにおいては多くの商品ラインナップに対して、即座に出荷できるように、大量の在庫を抱える傾向が強くなっています。ここで、在庫については、仕入時に全額経費処理を出来るわけでは無く、販売時に該当する原価分が経費となります。一方で、商品自体は既に仕入とそれに伴う支払が発生してきますので、損益計算上で利益は出ていても、仕入金額分はまだ回収できていない可能性が高く、利益に対して資金繰りが圧迫される傾向があります。従って、手元資金は乏しいにもかかわらず利益が多額に出る、という事が多く存在し、利益が発生するとそれに対する法人税が発生します。まず、この部分で、体感的には赤字にもかかわらず、利益に対する税金が発生する事となります。

資金損益
①商品を1,000仕入れる仕入代金 △1,0000
②商品のうち300を600で販売する売上入金  +600売上+600、仕入△300
③期末に在庫700が残る在庫700
Sub Total△400利益300
税額△90△90

もちろん上記③で損益計算上発生した在庫700については翌期以降に販売した場合に、仕入の支出を伴わずに経費にできるものですので、長い視点では損はしていないのですが、前述の通り在庫が増え続けてしまう傾向がありますので、増え続ける限りは当面資金にはマイナスの効果が発生する事となります。

・セール等による利ざやの低い売上の発生

在庫が増えすぎてしまった場合の応急処置として、セールによる値引き販売があります。また、使用しているショッピングサイト主導によるセールに参加しなければならない場合もあるでしょう。値引き販売の要否や対象商品の選定等については諸説ありますが、資金と納税の観点からすると、以下のようになります。

まず、税金のうち法人税に関しては上述の通り、販売時に仕入れ代金を経費計上出来ますので、利ざやが薄い場合には残る利益も少なく納税額もさほど気にしなくて大丈夫です。

一方で、消費税に関しては販売前であっても仕入時に消費税を乗せて支払済ですので、その時点で支払済みの消費税額を納税額から控除することとなります。そのため、初期の仕入のせいで資金が乏しい場合に消費税額は安く収まる傾向にあり良いのですが、仮に値引き販売であっても販売時には売上代金に消費税を乗せて販売し、対する前期以前に仕入れた商品については前述の通り仕入時に消費税の控除効果を既に受けている事になります。従って、前期以前仕入商品を販売する場合、仮に利ざやを薄く販売しても消費税については売上に対する全額について納税義務が発生する事となります。

そのため、在庫一掃セールのような形で滞留している在庫を一斉に販売した場合には、売上に対して納税する消費税額が大きくなる傾向がある為、こちら要注意となります。

前期に1000仕入て、その内300を前期に600で販売、内700を当期に900で販売(当期仕入は無し)した場合

前期当期
在庫売上在庫売上
税抜消費税税抜消費税税抜消費税税抜消費税
仕入1,00010000
販売300060060700090090
利益300200
消費税額△4090

前期は、売上600に対する仕入原価は300なので利益は300、一方で消費税は売上に対する60から仕入時に支払った100を控除して△40の納税(=還付)となります。

当期は、売上900に対して仕入原価は700なので利益は200、一方で消費税は売上に対する90から控除する仕入時の消費税はありませんので、90の納税となります。

・借入金の返済額

最後に、必ず出てくるのが借入金の返済額です。こちらについては、既に計算の中に含めている方も多いかと思いますが、借入金の返済額は経費ではないと共に消費税の納税額計算上控除出来るものではありませんので、借入金の返済額を超える利益が出ていない限りは手元の資金は減っていく傾向にあり、体感としては赤字と感じる事も多いかと思います。

特に、借入金の返済額に少し足りない利益が出ている場合には、法人税と消費税共に発生してきます。初期の大量仕入れに備えて運転資金として借入をされる方も多いかと思いますので、借入残高と月間返済額については頭の中に常に入っている状態がベストかと思います。

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