今回はITスタートアップ資金繰りと納税について解説していきます。ITスタートアップの場合ですと、他の業種とは異なる数値の見方になる傾向が強いかと思います。今の利益自体を見ていない事が多く、資金繰りを中心に資金ショートを防ぎつつVCやエンジェルからの資金調達を検討する、という形が現在の主流では無いでしょうか。
一方で、事業計画に対する将来キャッシュフローを見積るうえで、納税額が多額になる場合については、将来キャッシュフローの予測の際に含めておくことが重要になりますので、ここでは少額の納税ではなく、キャッシュフローに影響を与えるレベルに多額な税額が発生する可能性について記載していきます。
・外形標準課税
外形標準課税とは、資本金1億円超の法人を対象とした法人事業税の課税制度です。税額の計算方法としては①付加価値割と②資本割から計算されます。このうち②については資本金等の金額に対して一定税率で税額が発生するものになりますので、仮に赤字である場合にも税額が発生する事となります。スタートアップによっては、資本金と資本準備金を足した金額が高額に至っているケースもあるかと思いますので、数百万円単位で発生する事となります。
資本金1億円超の判定時期は決算日時点で超えている場合に発生する事となります。そのため、増資後、決算日までに減資を行い資本金を1億円以下にすることで外形標準課税の適用を回避する事が可能となっており、実際多額に調達していても資本金を1億円未満にまで下げている会社が多いのは、こちらの理由になります。ただし、減資を行うには官報への掲載や債権者への通知等の手続きが必要になりますので、通常1~2か月ほどの期間を要します。そのため、調達の時期によっては減資が間に合わずに資本金1億円超の状態で決算日を迎える企業も少なくありません。調達の時期については選べない面もありますので、調達を優先すべきではありますが、折角調達した資金を納税に使うよりは、本業の発展に使った方が投資家にとっても目的通りではありますので、投資家と相談可能出れば時期についても相談してみても良いかと思います。
また、①の付加価値割についても、利益に付加価値(給与、家賃、利息等)を加算した金額に対して加算した金額に対して税金が発生しますので、赤字であっても例えば人件費が経費の大部分を締める場合等には納税が発生する可能性があります。合わせてご留意頂ければと思います。
・繰越欠損金
ITスタートアップの場合ですと、初期は利益度外視で開発を進めますので、多額の欠損金があり、当面の間は利益が発生しても過去の欠損金との相殺により、法人税は発生しない事が多くなります。一方で、過去の欠損金を全額は当期の利益と相殺できなくなるケースがありますので、記載しておきます。こちらも、上述の外形標準課税と同様に、期末日時点の資本金が1億円を超える会社に対してですが、資本金が1億円を超える会社については、当期の利益に対して過去の繰越欠損金は一定割合しか相殺が出来ません。そのため、タイミングによっては単年度利益を達成した際にすぐに法人税が発生する可能性がありますので、ご注意ください。
こちら、資本金を1億円未満まで減資しておく追加の理由になります。外形標準課税と繰越欠損金、この二つを理由に減資するベンチャー企業は多くなっており、反対する投資家もまずいませんので、高額調達後には減資を検討するようにしましょう。なお、減資後、登記簿謄本に記載される資本金は下がりますが、ITベンチャー企業のHP上では調達の合計額を記載し、『資本準備金及び資本剰余金を含む』等と記載されている事が多くなっています。この場合には減資をしたんだな、と解釈する事が出来ます。
・法人住民税均等割り
こちらは、利益に関係なく会社の規模に応じて発生する税額になります。決算の際に赤字の場合には納税は7万円のみ、という認識のある方も多いかと思いますが、この7万円が該当します。こちら、実は会社の規模に応じて金額が変わるのですが、規模の判定としては資本金等の金額と従業員数が用いられます。
東京都主税局 均等割り額の計算に関する明細書記載の手引きより
上記は東京都の例になりますが、例えば出資を受けた総額が5億円になりますと、1億円超~10億円以下のレンジで、従業員数が50人を超える場合には530,000円になります。7万円と比較すると大分増えましたが、こちら事業所がある全ての都道府県市区町村で発生します。さらに、こちらの判定では資本金ではなく、資本金等の額という言葉が使われており、こちらは減資により資本金を下げても下がらない、過去の調達総額に該当することになります。
事業所の判定や、東京都以外の計算方法等細かなルールは沢山ありますが、調達額が高額になり、拠点を追加する場合には、均等割りも合計で数百万円に至る可能性がある点、頭の片隅においておいて頂けると良いかと思います。
・人件費が多額になることによる消費税の納税額
ITスタートアップの場合、自社サービスの開発に向けて、積極的に採用活動を行うことが多くなると思います。さらにサービスが成長してくると、セールスやカスタマー等多様なメンバーが増えていきます。人件費が多い場合、消費税の納税額が高額になります。こちらは、消費税の納税額は、売上入金時に預かった消費税から、経費支払時に支払った消費税を控除して算定しますが、人件費については消費税がかかっていませんので、経全体の中で控除できる消費税 が小さくなるためです。そして、給与のみならず社会保険料等の法定福利費についても同様に消費税はかかっていませんので、人関連の経費(通常これらすべてを含めて人件費といいます)全般が消費税のかからない経費となるためです。
当初は外注がメインだったところ、一定の時期に急激に従業員への切り替えと採用を進めると、消費税に関しては税額が大きく変わりますので、こちらもご注意いただければとおもいますが、消費税の納税額が大きいからと言って方針を変えるITスタートアップはいらっしゃらないと思いますので、資金繰り計画の中で考慮に入れて頂く形になるかと思います。