会社を経営していると、体感としては『資金的な余裕が無い』『なかなか預金残高が増えない』にもかかわらず、決算を税理士に依頼すると、予想を遥かに超える税額を伝えられて、『いやいやそんなはずはない』と感じた経験がおありではないでしょうか。本記事では、このような事態が発生する要因をお伝えすると共に、事前に把握する方法をご紹介させて頂きます。今後の資金繰り計画を策定する際であったり、節税対策や納税額の予想の際にお役立て頂ければ幸いです。

なお、ここでいう赤字については、厳密な月損益における赤字ではなく、実際に問合せ多い、『体感的な赤字』にフォーカスを合わせていますので、つまりは資金繰りの観点からの赤字を意味しています。

まず、このようなことが発生する要因としては、決算で確定する納税額の計算には、実際の利益の状況や資金繰りの状況とは別の要因が含まれることが原因になります。また、逆に体感には含まれるものの、決算では考慮されない事項もあり、これらが要因として、資金繰りに余裕はないのに、税額が高額となることがあるのです。そこで、まずは以下に要因を列挙させて頂きます。要因の中には、逆の事象を生じさせる事もありますが、体感より税金が安かった場合には、困ることは無いかと思いますので、説明の中では割愛させて頂きます。

・予定(中間)納税

・繰越欠損金

・消費税の計算方法

・事業税の特殊性

・借入金の返済

・設備投資

・予定(中間)納税

 法人税や消費税においては、一般的に予定納税と呼ぶ納税の制度があります。名称についての詳細は割愛しますが、前期の税額が一定以上の場合には、決算日から半年を経過した日から2カ月以内に前期の税額の半額を進行期分の税額の前払として支払っておく制度です。こちらで支払った税額は、決算時に既に支払済みの税額として、算出された一年間の税額から控除して決算時には支払うこととなります。一見すると、決算時の納税を少なくする方向に働く制度ですので、本記事のテーマとは逆の効果が有りそうにも見えますが、経営者の方の多くは、今年度の税額を予想する時に前期の決算時の納税額がいくらだったかを思い出してからそこに今期の業績を加味して納税額を予想される方も多いのではないでしょうか。

こちらが、予想と大きくずれる要因となってきます。当期の予定納税額はあくまで前期の年間税額の半額として計算されていますので、前期の税額によって当期の予定納税額は大きく異なります。また、前期の納税額は前期の業績に加えて一昨年の納税額が影響しています。すなわち、前期の決算時の納税額は、3年以上業績が安定している場合以外はあまり当てにならないのです。以下数値例で記載します。

前々期前期当期
決算納税予定納税決算納税予定納税決算納税
年間税額(a)200(c)150(f)200
予定納税額(b)100(b)△100(e)75(e)△75
決算時納税額(d)50125(g)

前々期の決算での年間税額が200(a)ですので、前期の予定納税はその半分として100(b)となります。そして前期の決算時に確定した年間税額が150(c)であった場合、決算時には予定納税済みの100(b)を差し引いて50(d)を納税する事となります。

すると、当期の予定納税額は前期年税額の半分として75(e)となります。そして、当期の決算時に確定した年間税額が200(f)に戻った場合、予定納税済みの75(e)を差し引いて125(g)を納税する事となります。

こちらのケースの場合、前期と当期を比較すると年間税額は150(c)から200(f)へと1.3倍であるにもかかわらず、決算時の納税額は前期は50(d)、当期は125(g)と2.5倍にも増えています。

特にベンチャー企業の場合、業績や設備投資が年度によって大きく変動することも珍しくありませんので、以下のような極端なケースも実際に多く発生しています。

前々期前期当期
決算納税予定納税決算納税予定納税決算納税
年間税額300150400
予定納税額150△15075△75
決算時納税額0325

さらには、上記の例では予定納税額を前期の半分として計算していますが、実際は消費税は、前期の年間税額に応じて、半年に一度前期の半分を支払う場合と、3か月に一度前期の4分の1を支払う場合、さらには、毎月前期の12分の1を支払う場合があります。ベンチャー企業の場合、半年毎の場合と3ヶ月に一度の場合が年度によって異なるケースも多くありますので、決算時の納税額は予測がより困難になります。さらには、前年度の年間税額からではなく、実際の当期の実績から算出して納税額を再計算する中間申告の方法もありますが、ここでは一旦割愛します。

(出典:国税庁HPより)

・繰越欠損金

 青色申告の一番のメリットといえる、欠損金の繰越控除についても体感からの予想と実際の納税額を乖離させる要因となることがあります。こちらは、赤字が発生した年度の赤字分を翌年以降に繰り越して、その後黒字が出た場合に相殺できるというものになります。基本的には税額を安くする方向に働くありがたい制度ですが、過去に大きな赤字が発生している会社の場合、その後長い期間黒字でも税金を支払わなくて良い事となり、『決算時には消費税の納税のみ』というの認識が染み付いてしまう事があります。繰り越して相殺できるのは、過去に発生した赤字分までですので、そちらを使い切った場合、又は、繰越可能期間を経過してしまった場合には、利益に対して法人税等が発生する事となりますので、繰越欠損金の残高については把握できるようにしておきましょう。具体的には、法人税申告書の別表七をご覧いただくと、残高と繰越可能期間を把握する事が可能となっています。

・消費税の計算方法

 税金というと利益に対して発生するものという認識が強いと思いますが、消費税は消費する行為に担税力(税金を負担する能力)を認めて課税しようとする税金になります。すなわち利益に関係なく、消費行為が多いと税額が大きくなります。一方で、この消費行為に対する納税は、モノやサービス利用の際に支払った時点で消費税を上乗せして支払っていますので、支払済みという事になります。では、法人で決算の時に支払う消費税は何かというと、自社に対して支払った人や会社が負担した消費税を国に収める行為になります。すなわち預かっていた金額を収めるのみですので、通常受け取った金額以上の納税はありません。さらに、預かった金額から、既にモノやサービス利用時に支払った金額を支払済みとして控除した上で納税額を算出しますので、売上時に預かった消費税相当額に比べると小さな金額のみが納税額として算出されるはずです。

 とはいえ、消費税の納税に関してはベンチャー企業にとって資金繰りに大きなダメージを与える要因となっています。実際は代金を受けった際に、消費税相当額を別口で貯蓄しておけば、決算時にはそこから消費税を納税しても、既に支払った消費税分が余るはずですが、資金繰り上ここまで余裕のあるベンチャー企業は多くないようです。消費税込みで代金を受け取っている以上、預金残高は増えていますのでその残高に対して経営の意思決定を進める事の方が多くなっています。そのため、決算時の消費税の納税額には、改めて驚いてしまうケースが多いように見受けられます。また、上述の予定納税との兼ね合いと合わさりますので、納税を負担に感じるのは消費税が一番多いようです。

 特に社長の奥様が経理をやられている場合に多いですが、売上の入金があった時に入金額の一定割合を別口座に移動して納税資金として貯蓄しているケースがあります。もちろんこの形がベストではありますが、状況変化の激しいベンチャー企業では継続して実施することは難しいようです。

 そして、人件費のように消費という性格では無い経費も存在します。実際お給料を支払う際には消費税を乗せて支払う事はしていませんので、売上で預かった消費税から、経費支払時に支払った消費税額を控除して消費税の納税額を計算する際にお給料に関する部分の経費分は消費税を控除することは出来ない事となります。そのため、例えば営業利益がゼロであったとしても消費税納税額の計算上、人件費相当分については消費税の納税が発生する事となります。

税抜金額消費税額税抜金額消費税額
仕入40040売上1,000100
人件費3000

利  益 1,000 – 400 – 300 = 300

消費税額 100 – 40 – 0 = 60 →利益300の10%にはならない

 

・事業税の特殊性

 事業税は都道府県に納税する地方税の一種で、法人税と同様に利益に対して税率を乗じて納税額が計算されます。通常法人税と合わせて合計納税額として把握されている事が多いですが、事業税は税額の中では珍しく、支払った金額を経費とする事が出来るモノとなっています。従って、当期に利益が発生した場合、決算確定後に支払った事業税は翌期の経費となります。会計上は当期に未払法人税等として処理しておき、翌期の支払い時にはこの未払法人税等を取り崩す処理になりますので、翌期の損益計算書には計上されませんが、法人税申告書上で減算されて、翌期の税額が計算されることとなります。

 このこと自体は損益計算書上の利益よりも税額を安くする方向に働くものですので、問題は生じませんが、支払った時に経費になるという事は、還付(戻り)を受け取った時には利益になります。そして、還付が発生する場合としては、上述の予定納税の戻りが通常で、予定納税が戻るという事は、当期の年間納税額が前期の年間納税額の半分未満の場合になりますので、例えば前期に利益が発生して、当期が赤字の場合等が該当します。そしてこの前期の利益が大きい場合、当期の予定納税額及び還付金額は多額になりますので、実際に還付を受ける翌期に損益計算書を経由しない利益が発生する事となります。

前期当期翌期
決算期中決算期中決算
年間税額(発生)3000
納税額3000
予定納税額150△150
経費になる金額450△150

影響を受ける金額が多額になることは稀ですが、損益計算書上の利益と税金計算上の所得金額のズレが生じる箇所になります。

・借入金の返済

資金繰り上の体感を圧迫する最たるものはやはり、借入金の返済では無いかと思います。借入金の返済額は損益計算書や税金計算上は経費になりませんので、年間返済合計額より少ない利益が出ている場合には資金的には余裕はないはずですが、利益に対して税額は発生する事となります。

・設備投資

設備投資についても、支出はしたものの支出額全額がその期の経費とはならないものがありますので、その分についても体感よりも利益が増えた状態で税額が計算されることとなります。この、支出額全額が経費にならない支出については減価償却を通じて、耐用年数に応じて翌期以降では経費にはなりますが、対象となる資産が10万円以上のものですので、以外と広範囲であることと、大きな設備投資をした場合には支出も大きく、かつ耐用年数も長期にわたることが多いので、手許現金から支払った場合には特に注意が必要です。そして、もし借入をして支払った場合には、翌期以降に上述の『借入金の返済』と同じ事象が発生する事となります。

如何でしたでしょうか。おそらくどの会社であっても、いずれか該当するものがあったのではないかと思います。上記をまとめて解決する方法として、やはり決算前のタイミングでの顧問税理士との納税予想を実施する事が望ましいです。決算前に実施することで決算までの間に対応出来る事であったり、納税までの期限がありますので、融資を検討する事も可能になります。

特に予定納税や繰越欠損金については、納税予想の際には加味して算出が可能ですし、消費税額についても会計ソフトからその時点までの実績を仮集計することが可能となります。また、設備投資についても、いくつか選択適用が認められている部分もありますので、期中に実施した設備投資がどのような取り扱いになるか、また決算日までに予定している設備投資についても確認する事が出来ます。

上記、決算前に実施するので、実施日から決算日までの状況を反映する事が必要になりますので、顧問税理士に資料作成をお願いするのではなく、決算日までの状況を打合せ形式で作成する形が実態に近い状況を想定できる、という点と納税額についても説明してもらうと、少しは納得して納税を迎えられる可能性が高いかと思います。

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