税理士や経理担当者から試算表又は決算書を受け取った際に、損益計算書に表示されている利益の金額と、自身が把握している預金の増減が合っていないと感じた経験は有りませんでしょうか。また、合わない理由を確認してもその時は一時的に理解したものの、その後は『合わないもの』と位置付けて、会計と資金を切り離して考えるようになってしまっている方もいらっしゃるのではないかと思います。

今回は、合わない理由を改めて把握して頂くと共に、合わなかった時に確認すべき項目を解説したいと思います。また、ズレの原因は必要売上高の計算や資金繰りの改善、さらには今後の資金計画に大きく影響する事項でもありますので、是非スッキリと整理するのに役立てて頂けると幸いです。

前回の記事で全般的な事項を記載させて頂きましたので、こちらでは業種別の事例を交えた解説を実施して参ります。もし、こちらの記事が分かり易いと感じて頂けた方には、是非前回記事にて大枠のお話もご確認頂けますとよりイメージがつかみやすいかと思います。

<前提>

ECの普及に伴い、卸売業は大きく変わってきています。従来店頭に商品を並べて販売することが主流であった頃に比較して、物理的なスペースを要さないインターネット上では、より多くの商品を陳列する事が出来き、結果として多くの在庫を保持する必要が出てきています。また、お客様側では注文からすぐに商品が到着する事が当たり前になってきているため、受注を受けてから仕入れるような受注発注の形態ですと顧客満足が足りなくなる可能性もあり、店舗の家賃等が掛からない分、事業の開始がしやすいと思いきやその後の在庫管理に苦労されている方も多いと思います。

そこで、ECサイトにも多くの形態がありますが、外部から商品を仕入れて自社ECサイトやショッピングモールにて販売する形態を中心に利益と預金増減に生じる差異を解説していきます。

<在庫>

上述の通り、人気のあるECサイトでは非常に多くの在庫を抱えています。在庫に関しては純粋に先に仕入れて預金が出た後、まだ売れていない商品になりますので、入金はないものの、出金だけが発生しているモノになります。

一方で、会計上は預金が在庫に形を変えただけと認識されますので、損益計算書には在庫の購入時点では原価としては計上されず、販売したときに該当する分が原価として経費に計上される形になります。

こちらの金額が大きくなればなるほど、会計上は利益が出ているものの、在庫が大きくなりすぎていて、預金残高は少ない状態になる可能性を秘めています。また、預金の減少が先に進むので、急激に伸びている場合には借入をしなければ次の仕入が行えない、という状況も良く見かけます。

定期的な商品ラインナップの更新が求められるECにおいては、仕入の計画と借入の計画が事業開始時には一つの重要ポイントになります。

在庫の適正水準については一概には申し上げられませんが、月間の売上高との対比で増加状況のご確認をされることをお勧め致します。

<掛仕入>

在庫が利益に対して預金の減少方向への影響を与える旨を前述で記載させて頂きましたが、在庫の仕入に対する代金の支払い方が逆方向に影響を与える事になります。

すなわち、商品の仕入から支払までの間の期間が長くなる程、利益に対して預金の減少が後になりますので、資金繰り的には有利に働きます。一方で、例えば海外からの輸入商品を扱っている場合や中国の工場から仕入れている場合等ですと、逆に前払が求められる事も多いかと思います。例えば、発注時に代金を支払い、先方が着金確認後に発送してくれる場合ですと、代金の支払い後に商品が到着するまでにそれなりの時間を要すると共に、到着後お客様が購入をしてくれるまでの間、預金が出た状態が長いこととなります。この場合、利益と預金の減少の間に差は生まれませんので、分かり易くはありますが、売上の入金までには時間が掛かりますので、会社の資金繰りとしては悪い方向へ働く事となります。

仕入に対する代金の支払いサイトは上記在庫と合わせて非常に重要なポイントになるかと思います。また、取引を継続していく中で、最初は前払のみ認められていたのに対して、半分前払いで、残り半分は商品到着後、等のように信頼に応じて掛けでの仕入へ切り替えて行く交渉も可能な場合がありますので、こちらも合わせて仕入先の選定や関係の構築には注意して頂く事が資金繰りを悪化させない方法になります。掛仕入が認められる場合には、その分利益に対して預金残高の減少が少なくなりますので、資金繰りへ良い影響を与えることとなります。

<掛け売上>

ECサイトの場合ですと、クレジットカードをはじめ、キャッシュレスでの決済が主流ではありますが、代引きやコンビニ支払等もまだ需要として存在している状態にあります。一方で、現金支払いは物理的に無い事となりますので、お客様が購入してから会社への入金までには支払手段毎それぞれの期間が発生する事となります。当該未入金分については、利益に対して預金の増加がまだ発生していない部分になり、利益と預金の増減の乖離が生じる部分になります。

ショッピングモールの場合ですと、15日毎や10日毎が現在では主流のようですが、クレジットカード決済の場合ですと、最短翌日というものもありますので、回収手段について選べる自社サイトのような場合ですと、手数料率との兼ね合いも含めて回収までの期間は重要な決定事項になります。

なお、従来の百貨店への卸売りのように、消化仕入(百貨店へ陳列してもらい売れたらその分百貨店が仕入れてくれる)のような形の場合には、商品出荷後売上代金入金までの時間は予測が難しかったですが、ECサイトの場合には予測が可能ですので、資金繰り計画は大分立てやすくなったかと思います。

<借入>

ECの場合、物理的な店舗等が不要なため、初期投資はそこまで大きく無く、また自社サイトを立ち上げる場合であっても現在は自身で構築できるものも多く存在しています。そこで、創業時に借入はしなくとも事業は開始出来るかと思います。

一方で上述在庫のお話で記載させて頂きました通り、売上が伸びる程仕入に充てる代金が追い付かなくなりますので、運転資金としての借入が必要になります。

借入を行った場合、当然に返済が必要になりますので、通常ですと毎月の借入の返済額を超える利益が出ていれば、中期的には資金繰りに問題は無いと言えますが、在庫が資金繰りに与える影響が大きくなりますので、毎月の資金繰りを見る上ではさらに加えて今後の在庫残高の増加見込み額分、利益を確保しておくことが必要になります。

<設備投資>

ECの場合ですと、実店舗を出店する場合以外ですと多額の設備投資はあまり想定されないかと思いますが、サーバー代や在庫管理システム等ある程度の設備投資は出てくるかと思います。設備投資を行った場合、会計上は支払時に経費には出来ずに、固定資産として計上して減価償却を通じて一定期間で按分して経費処理を行います。

基本的には1つ10万円以上のものになりますが、会社の状況に応じて複数の会計処理方法からの選択が求められている箇所でもありますので、貸借対照表の残高で増減を把握して頂ければ増加した分は購入して支払ったけど、まだ経費には計上していない分、つまり今後長期間をかけて経費としてタイミングのズレが解消していく分になります。

なお、前の年に購入したモノで固定資産に計上した分については、逆に、支出は今期は無いものの、減価償却費として経費になるものですので、こちらは支出は無く経費になったものとして、利益を小さく、預金を大きく見せる方向に当初のズレの解消へ働いているモノとなります。

なお、融資を受けて設備投資を実施した場合、毎月の会計上の損益では、借入金の返済分利益よりも預金残高が減少するのに対して、設備投資の減価償却分は利益より預金残高が増加するという関係にありますので、毎月の返済額と減価償却費のどちらが大きいかは把握されておいた方が良いかと思います。

<前払>

前払をする取引としては家賃や倉庫代、年間契約したサービス等が多いかと思います。これらについては、会計処理方法によっては前払として認識しない事も一定の要件の元認められていますので、該当取引があっても必ずしも該当しないかもしれませんが、仮に何か多額の前払いが有った場合には、前払金又は前払費用の残高をご確認頂き、それが増えている場合は利益に対して預金は減少し、減っている場合利益に対して預金は増加している事になります。

<掛け支払>

仕入や経費の支払いについても、月末締め翌月末支払のように、発生から支払いまでの期間があるものがほとんどかと思います。仕入と同様にこちらの期間が長いほど、その期間中の売上を支払に充てられる事になりますので、資金繰りには良い影響を与える事になります。

利益に対して資金繰りに与える影響としては、未払金又は未払費用の残高をご確認頂ければ把握可能ですので、残高が増えていれば、利益よりも預金残高の増加は大きくなっているはずです。

広告宣伝費等は多額に発生する可能性も高く、クレジットカード決済可能なものも多いかと思います。クレジットカード支払による、口座引落日までの期間も同様に未払金としての効果が出ますので、限度額にお気をつけ頂きながらご利用頂ければと思います。

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