税理士や経理担当者から試算表又は決算書を受け取った際に、損益計算書に表示されている利益の金額と、自身が把握している預金の増減が合っていないと感じた経験は有りませんでしょうか。また、合わない理由を確認してもその時は一時的に理解したものの、その後は『合わないもの』と位置付けて、会計と資金を切り離して考えるようになってしまっている方もいらっしゃるのではないかと思います。

今回は、合わない理由を改めて把握して頂くと共に、合わなかった時に確認すべき項目を解説したいと思います。また、ズレの原因は必要売上高の計算や資金繰りの改善、さらには今後の資金計画に大きく影響する事項でもありますので、是非スッキリと整理するのに役立てて頂けると幸いです。

前回の記事で全般的な事項を記載させて頂きましたので、こちらでは業種別の事例を交えた解説を実施して参ります。もし、こちらの記事が分かり易いと感じて頂けた方には、是非前回記事にて大枠のお話もご確認頂けますとよりイメージがつかみやすいかと思います。

会社の利益と預金が合わない 導入編

<前提>

サービス業として大きく分類してしまっていますが、ここでは主に労働集約型モデルで、人が作業をすることによってお客様から報酬を受け取る種類の業種をまとめています。また、BtoCとBtoBでは事業モデルが大きく異なりますので、BtoBに絞って解説していきます。

最近ですと、社内に従業員として雇用はせずに、個人事業者への外注でサービス提供を行う場合や、同類のサービスを提供している会社自体への外注のケースも多くあるかと思います。こちらの場合、基本的には経費としては人件費と外注費になりますので、経費については大きな月ズレは生じずにほとんどが当月又は翌月には支払が完了する形になるかと思います。

一方で、売上については毎月締めて月額で請求する場合や、成果物の納品に応じて請求する場合等があり、特に作業期間の長い案件がある場合には、外注費なども経費計上されない場合がありますので、売上の態様に応じて利益と預金残高増減のズレ要因を解説していきます。

<掛け売上>

現在ですとBtoBのサービス業の場合、月末締め翌月末支払又は納品日締め翌月末支払で請求を行う会社が多いかと思います。

月末締め翌月末支払の場合ですと、1か月分だけ売上の計上より入金が遅くなる形ですので、後述の通り掛け支払に該当する、関連経費の支払とタイミングが同じになり、会計上の利益と預金残高の増減について、大きな違和感を覚える事は少ないと思います。

一方で、納品ベースで請求している場合ですと、作業期間が数か月以上に及ぶ場合には、請求に対して、毎月の経費が翌月には支出するため、資金繰りは苦しくなる傾向にあります。こちらについては、着手金や中間金の交渉をすることで解消している会社が多いとは思いますが、決算のタイミングでは、決算月時点で納品が完了していない分に対する経費を仕掛品等の貸借対照表科目で計上し、経費から除くと共に、翌期以降に納品及び売上が計上されたときに合わせて経費として処理する事となっています。したがって、その分は会計上の利益と預金の増減がズレる要因となりますので、納期が長期に渡るような案件を扱っている場合には、利益と預金増減の差が以下のような科目に出てきます。

仕掛品:上述の未納品分に係る経費

 →支出しているが経費に計上されていないため、利益に対して預金を減少させている。

前受金:未納品の案件に対して受け取った着手金や手付金

 →入金しているが売上未計上のため、利益に対して預金を増加させていてる。

<掛支払>

BtoBサービス業の場合には、支払としては人件費や外注費が主な経費になりますので、締日から支払日までの間に1か月以内の期間があることが通常かと思います。その場合、期末に残っている未払金分は、支出はまだしていないものの経費として計上されているものになります。利益に対して資金繰りに与える影響としては、未払金又は未払費用の残高をご確認頂ければ把握可能ですので、残高が増えていれば、利益よりも預金残高の増加は大きくなっているはずです。

広告宣伝費等は多額に発生する可能性も高く、クレジットカード決済可能なものも多いかと思います。クレジットカード支払による、口座引落日までの期間も同様に未払金としての効果が出ますので、限度額にお気をつけ頂きながらご利用頂ければと思います。

<設備投資>

BtoBサービス業の場合多額の設備投資はあまり想定されないかと思いますが、事務所の内装工事代や業種毎のシステム開発等ある程度の設備投資は出てくるかと思います。設備投資を行った場合、会計上は支払時に経費には出来ずに、固定資産として計上して減価償却を通じて一定期間で按分して経費処理を行います。

基本的には1つ10万円以上のものになりますが、会社の状況に応じて複数の会計処理方法からの選択が求められている箇所でもありますので、貸借対照表の残高で増減を把握して頂ければ増加した分は購入して支払ったけど、まだ経費には計上していない分、つまり今後長期間をかけて経費としてタイミングのズレが解消していく分になります。

なお、前の年に購入したモノで固定資産に計上した分については、逆に、支出は今期は無いものの、減価償却費として経費になるものですので、こちらは支出は無く経費になったものとして、利益を小さく、預金を大きく見せる方向に当初のズレの解消へ働いているモノとなります。

なお、融資を受けて設備投資を実施した場合、毎月の会計上の損益では、借入金の返済分利益よりも預金残高が減少するのに対して、設備投資の減価償却分は利益より預金残高が増加するという関係にありますので、毎月の返済額と減価償却費のどちらが大きいかは把握されておいた方が良いかと思います。

<前払>

前払をする取引としては家賃や、年間契約したサービス等が多いかと思います。これらについては、会計処理方法によっては前払として認識しない事も一定の要件の元認められていますので、該当取引があっても必ずしも該当しないかもしれませんが、仮に何か多額の前払いが有った場合には、前払金又は前払費用の残高をご確認頂き、それが増えている場合は利益に対して預金は減少し、減っている場合利益に対して預金は増加している事になります。

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