税理士や経理担当者から試算表又は決算書を受け取った際に、損益計算書に表示されている利益の金額と、自身が把握している預金の増減が合っていないと感じた経験は有りませんでしょうか。また、合わない理由を確認してもその時は一時的に理解したものの、その後は『合わないもの』と位置付けて、会計と資金を切り離して考えるようになってしまっている方もいらっしゃるのではないかと思います。

今回は、合わない理由を改めて把握して頂くと共に、合わなかった時に確認すべき項目を解説したいと思います。また、ズレの原因は必要売上高の計算や資金繰りの改善、さらには今後の資金計画に大きく影響する事項でもありますので、是非スッキリと整理するのに役立てて頂けると幸いです。

前回の記事で全般的な事項を記載させて頂きましたので、こちらでは業種別の事例を交えた解説を実施して参ります。もし、こちらの記事が分かり易いと感じて頂けた方には、是非前回記事にて大枠のお話もご確認頂けますとよりイメージがつかみやすいかと思います。

会社の利益と預金が合わない 導入編

<前提>

ITスタートアップの場合ですと、他の業種とは異なる数値の見方になる傾向が強いかと思います。今の利益自体を見ていない事が多く、資金繰りを中心に資金ショートを防ぎつつVCやエンジェルからの資金調達を検討する、という形が現在の主流では無いでしょうか。

その場合、利益スタートで資金繰りを見るステージは、単月黒字を狙う状況になってからになりますので、会計上の利益はそこまで気にせずに、別途定めたKPIを追いかける事になります。

一方で、資金繰りを見るうえで、もっとも正しい情報として会計数値があります。また、資金繰りを網羅的にゼロから又は通帳から作成する事は非常に困難である点と、事業計画上は、発生主義で経費を考える事が計画作成もしやすくなります。

そこで、過去の利益は気にしなくとも、事業計画に対する将来キャッシュフローを見積るうえで、当シリーズと同様に経費の発生とキャッシュアウト時期を把握し、資金計画に反映する事が重要となります。

<通常経費>

通常の経費については、月末締め翌月末支払、又はクレジットカード支払いが主流になると思います。急激に外注を増やす場合等を除くと、2か月以上のサイクルで見た場合には、事業計画に対する資金繰りへの影響は小さいという点と、支出が事業計画よりも1か月遅くなる、という資金繰り上は良い方向へのインパクトになりますので、資金ショート時期を見込む上では考慮しないことも一つの手段かもしれません。

ただし、資金調達済みの場合には、急激な加速に伴い、月次の経費が大きく動きますので、発生した経費は翌月に支出するものとして資金計画を策定しておいた方が、実績との乖離にな悩まされずに住むかと思います。

<売掛金>

ITスタートアップの場合ですと、ウェブサービス等によって月額課金の場合や年払いの場合、買切りの場合等様々な形態がありますが、基本的にはウェブ上でお客様のお申込み等も完結するため、決済代行会社からの入金が主になります。

その場合には、決済代行会社からの入金までの期間分、未入金分が売掛金として会計上は処理されるという点と、事業計画上の売上はお客様のお申込み時点で計算すると思いますので、実際の入金までにはタイムラグが発生する事となります。そこで、事業計画上計上した売上の内どの程度の割合が当月入金し、どの程度の割合が翌月入金と見込むかが重要になります。決済代行会社からの入金サイクルに応じて、事業計画上の売上の入金時期をしっかりと把握しておきましょう。

<前受金>

売上で年払い等も最近ですと多いかと思います。未来の分の売上金が先に入金するので、資金繰り上は非常に良い半面、その後は売上が上がっても入金が無いという事になりますので、事後的には資金繰りに大きくマイナス方向に働く事になります。

特に、月額支払と年額支払を用意しているような場合ですと、お客様がどちらで申し込むかを事前に予測する事は非常に困難であるため、ある程度の予測で資金繰りを考える必要があります。その際には、上述の通り資金ショート時期を確認する事が目的の場合には、前受は少なめに発生するものとして見込んでおいた方が、会社存続の観点からは良いかと思います。

<その他>

Fintechのように、お客様の資金を扱うサービスの場合には、お客様からの預り金や、預託金等、会社の預金口座には入っているものの、使ってはいけない資金も登場してくるかと思います。こちらについては、どのように会計処理するのが良いかと、事業計画上で当該資金の扱い方また、資金繰り表上での考え方について、専門家と相談することをお勧め致します。新しい事業をやる場合には特に事例が無い事も多いことがITスタートアップの特性となっていますので、一般的に流通しているような資金繰り計画では正確に反映が難しい部分となりますので、ご注意ください。

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