財務分析をする上では、ビジネスモデル毎に重要となる指標や考え方が異なることが多くなります。そこで、本シリーズにおいては、ビジネスモデルを以下の通り分類しています。

①飲食店

②EC、卸売業

③BtoBサービス業(受託開発、デザイン、コンサル等)

④BtoCサービス業(家事代行、美容院等)

⑤ITスタートアップ

上記分類は主に、①売上の発生方法、②代金の回収方法、③原価率の考え方、④人件費率の考え方、⑤KPI等非財務重点項目、の異なる毎での分類となっています。

今実施している事業が、どれが最も近いかどうかがわかりにくい方もいらっしゃるかと思いますので、自社の事業内容の特徴と照らしてどのモデルが最も近似した特徴を有しているかご確認頂き、その特徴に応じたシリーズをご一読いただけますと、幸いです。

売上の発生方法代金の回収方法原価率の考え方人件費率の考え方KPI等非財務重点項目
・毎日売上が上がるが日ごとに異なる場合・ある程度の締め日があり事前に次回の締め日での売上が予測可能な場合・現金で日々回収可能な場合・決済サービスから数日で回収可能な場合・締め日後一定期間後にまとめて入金される場合・業界として指標となる原価率がある場合・原価率がコントロール可能な場合・原価が発生しない場合・原価がある場合と無い場合・人件費が固定費の場合と純変動費の場合・外注への置き換えの可能性・売上獲得のための要素分析の可能性(PV数、コンバージョン率等)・売上よりもKPIが重要になる場合(主にITスタートアップ)
売上予測、目標設定の観点資金繰りの観点利益確保の観点利益確保の観点営業戦略の観点
売上の発生方法代金の回収方法原価率の考え方人件費率の考え方KPI等非財務重点項目
飲食店実際に来店して頂いた方が、サービス提供後にレジにて支払う現金を含めその他決済でも代金の回収は早期が可能業界として目標とすべき原価率が存在する原価率を考慮した上での目標人件費率の設定が可能パートタイム等を活用して純変動費化も可能原価率と人件費率が最重要借入も多額にある可能性が高く日毎の入金に対して計画的な支払の検討が重要
EC、卸売業商品納品後に売上が立つ銀行振込や決済システムにより入金の早期化は可能であるものの、先に仕入が発生する原価率は取り扱い商品毎にある程度決まっており、また売価も市場によって形成されていることが多い。売上高からの人件費率の判定は取扱商品や競合他社の売価の動きに影響を受けるため、売上総利益に対する人件費の割合で見る必要がある。在庫を多く抱える傾向があり、利益と資金繰りが乖離する可能性が高い
在庫整理と合わせた値引き販売等の検討要素が大きい
実店舗を有していてもウェブ販売が主流になるため、サイトへの集客と分析が肝となる。
BtoBサービス業月末締め翌月末支払が多い。納品を伴う場合には、受注後入金が長期にわたる可能性があるため、資金繰りには要注意。銀行振込が現時点では主流。信用調査を怠ると未回収となるリスクを常に抱えている。原価率は無い場合が多い。また、ある場合であっても、コントロールが効きやすい。人件費が主な経費となるため、人件費率、一人当たり採算性が最重要指標となる。人件費と外注費の配分、コントロールが重要課題となる。営業については、市販のCRM等で対応可能であることが多い。
BtoCサービス業サービス提供直後に、立つことが多いが、いわゆるサブスクモデルへの切り替えの検討も有りうる。現金を含めその他決済でも代金の回収は早期化が可能であり、サブスクモデル含めて検討の余地は多い。原価は高額には発生しないことが多いため、重要項目とはなりずらい。人件費が主な経費となるため、人件費率、一人当たり採算性が最重要指標となる。人件費と外注費の配分、コントロールが重要課題となる。集客はウェブが主流となり、業界毎に強いポータルサイトがあることが多い。
ITスタートアップクレジットカード決済が多いものの、サービス内容によっては企業向けの月締め請求書等も存在する。クレジットカード決済や銀行振り込みなどあるものの、資金繰りの観点は次の資金調達を常に視野に入れているため、未回収以外は気にしないことが多い。原価が発生しないことが多い。ビジネスモデルの設計上としての原価については、モデルが成立しているかの判定において重要となる。開発やカスタマーサポート等、優秀な人材を採用し続ける傾向が強く、売上に対する割合よりも資金繰りとの兼ね合いで決定するため、人件費率はあまり気にしない傾向にある。会計数値とは別に、システムの管理画面上で、KPIを設定し常に計測していることが通常である。会計数値より設定したKPIが重視され、当該KPIの実績をもって最重要課題である資金調達へと進む傾向が強い。

本シリーズでは、一般的な考え方と合わせて、類型別の特徴や課題を記載することで、より実態に近い記事をご提供できればと考えておりますので、上記分類から最も近しい類型をご確認頂くと共に、別のビジネスモデルへの転換や進出をご検討されていらっしゃる場合には、そちらもご参照頂けますと幸いです。

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