試算表の見方や財務分析などの調べ物をしていると、会社の数値の良し悪しについて書かれていますが、そもそものお話が記載されていないことをよく見かけます。
金融機関は審査でここを見ている!財務指標がこうだと良い会社!等、事業を進めるうえで参考になる情報や会社の改善点を抽出する事には役立ちますが、参考にしたり改善したりする目的そのもののお話について、ここでは記載したいと思います。
1.会社の目的
結論としては、利益金額を増やすこと、こちら一つに絞って考えて良いと思います。
起業したからには、強い『志』や『世界をこう変えたい』という目的も有ると思いますが、事業として必ず必要になるのが絶対値としての利益金額になります。
常に追いかける短期的な目標とは別に、会社の絶対的な目的として認識しておくことで中長期的な計画を策定する時や値引き販売の判断等の意思決定に用いられる指標となります。そこで、以下会社の目的として良く掲げられる項目との関係を解説します。
2.売上と利益
会社の目的として、『売上〇億円突破』や『市場シェア〇%』等、利益以外の目的を掲げ公表している事も多く見かけます。もちろんこちらは間違いではありません。誰しもが直観的に把握しやすい目標を掲げる事で会社のベクトルを示すことは非常に重要になります。特に社内においては、売上は社内で公表しているものの、利益金額は公表していないケースも多いのではないでしょうか。中小企業の場合、役員報酬によって利益金額へ大きな影響を与える事が多いため、社内メンバーにはコントロール不可能な利益金額を公表したところで、モチベーションに繋がらない事も事実としてあります。その為、社内においては売上高や流通量で目標を掲げる事が多くあります。
ここで重要なことは売上高や流通量の目標を掲げた中で、その目標を達成した時に赤字であってはならないという事です。こちらを聞くと当たり前のことだと感じて頂けると思います。目標を達成したからには次なる目標達成の為にも潤沢な会社である必要があります。ただ、この当たり前を達成する事は意外と難しく、売上の増加に伴い経費も想像以上に増えていきます。事前に想定する事は難しいものや、新しい商慣習による追加コストも継続的に発生してきます。
そこで、公表している目標とそれに伴う利益金額の想定と実績比較を実施して、利益金額をコントロールする事が必要になります。また、会社としては目標売上達成前に、目標利益を達成する事は全く持って問題は無く、再投資により目標達成を早める事も可能でしょう。したがって、公表する目標とは別に、社長や管理部としては、利益額を目標として常に考える必要があるのです。
3.資金と利益
資金と利益はある程度連動しますので、利益が出ればその分資金が増えます。資金が増えれば再投資が可能になり、より大きな利益を求める事が可能になります。ただし、『会社の利益と預金が合わない』シリーズでも記載の通り、短期的には利益が出ていても資金が増えない事が発生します。しかし、利益を出し続ける事でこれらの事象は解消し、資金の増加につながります。最終的な目的としては資金の増加でも良いのですが、資金の増減の中には、過去の活動の結果として将来に発生するものがあるため、今後の活動を決めるための目標としては、利益で考えた方がネクストアクションの決定が容易になりますので、会社の目的としては利益金額を増やすこととしています。
4.従業員と利益
従業員と利益は相反関係に有ると言えます。いずれの事業においても従業員へのお給料は経費の大部分を占める事になるため、給料が少なければ利益は増え、給料が多ければ利益が減る事となるためです。一方で、従業員が利益を生み出すことも事実です。この意味では相反では無く、相関関係と言った方が適切かもしれません。偉大な経営者達の言葉の中では従業員を大切にするものが非常に多くなっているのもこのためでしょう。ただし、従業員を大切にする為には、利益が必要です。給料の未払リスクをはじめ福利厚生への注力など、従業員に対して余裕のある(厳密には余裕があると従業員に感じてもらえる)資金投下が出来る必要があります。そのためには、獲得した売上に対して十分な利益が残る体制を維持する必要があり、その体制作りが社長ないし管理部門の役割と言えると思います。
5.財務指標と利益
財務指標では%や〇回転等で表される事が多いですが、あくまで会社の規模等を均した上での参考指標になりますので、売上に対して利益を残すために必要な情報や改善点を抽出する為のものと考えて頂いて良いかと思います。極論的には、他社と比べて財務指標は悪くても絶対値としての利益金額が大きければ会社の経営としては問題無いと言えます。一方で、絶対値としての利益金額が大きい場合、財務指標も自然と良くなるように出来ていますので、嫌でも財務指標は良くなってしまうでしょう。
6.資金調達と利益
資金調達はあくまで目的達成のための手段ですので、資金調達を目的に掲げる事は無いかと思います。特に金融機関からの借入については、借入金額や条件によって会社に対する社会的信頼を表すものにはなりますが、その借入金額を用いて事業を伸ばすことが目的であり、借入を返済する資金は利益からのみ生まれてくるものになります。ただ、事業を進める過程では多くの企業が資金難を経験します。ピンチの時には一時的に借入が目的になることは否めませんが、それはあくまで将来の利益の為と、立ち止まって考えて頂ければと思います。
スタートアップ企業の場合には、例外ケースも有りますので、一般論になりますが、最初は自分の事業に対する社会の評価として資金調達が目的となる事があるかと思います。ただし、最初の資金調達後には、出資者は当然に利益を求めての出資になりますので、いずれ単月黒字が見込める(又は、大手が運営すれば単月黒字が見込める)状況が必要になるでしょう。
7.志と利益
志の実現には必ず利益が必要です。事業としての志に対して、利益は絶対的な評価基準となり、賛同者を多く集める為に最も必要なものが利益になります。人によっては起業時に志のみで賛同者を集める事が出来る人格者もいらっしゃいますが、その志を継続すると共に長く賛同してもらう為にも、利益は絶対的な指標と言えるでしょう。
以上になります。
いずれの目的を達成する為にも、必ず利益の金額を気にする事で、他の目的達成にも近づく事になりますので、是非常に念頭に利益金額を置いておいて頂ければと思います。