会社の経営をされていると、資金繰りが楽ではない状況にもかかわらず、税理士や経理担当者から受け取った試算表又は決算書では、想像以上の利益が出ていることになっていると感じたことは有りませんでしょうか。また、合わない理由を確認しても、『合わないもの』と位置付けてしまい、今後どうすれば決算書上の利益と体感上の利益を近づけられるのかの解決策までには至れていない方も多いのではないかと思います。
今回は、合わない理由を改めて把握して頂くと共に、合わなかった時に確認すべき項目を解説したいと思います。また、ズレの原因は必要売上高の計算や資金繰りの改善、さらには今後の資金計画に大きく影響する事項でもありますので、是非スッキリと整理するのに役立てて頂けると幸いです。
会計上の利益と預金の増減は.『会社の利益と預金が合わない』シリーズでご紹介した通り、会計上の利益と預金の増減が一致しない要因に起因しているものが、多くなっています。今回は、原因と解消見込別に分類し、認識との差が今後も発生するものなのか、解消の見込みはあるのか、また、解消した方が良いものなのか、を中心に解説していきます。
まずは、資金繰りが楽ではないにもかかわらず会計上、利益が出る要因を以下の3つに分類して解説します。
<過去に起因するもの>
<当期に起因するもの>
<日常的な取引に起因するもの>
<過去に起因するもの>
まずは、過去に発生した突発的な事情により、その影響が当期にも及んでいるモノになります。こちらは、過去に資金繰りが非常に苦しかった場合等に抱えた債務の支払が当期にある場合です。具体的には、多額の借入金、社会保険料や税金の未納、現在利益に貢献していない分割支払い債務等が該当します。
これらについては、過去に既に経費になっているが支払をしていない又は、過去に入金があったものですので、当時は資金繰りを良くする目的で発生していると思います。その分のいわゆるツケが現在に資金繰りをマイナスにしている事になります。一方で、現在会計上利益が出ているのであればこちらのツケは返済が進んでいる事になりますので、いずれ解決するものと考えて頂いて大丈夫です。また、当該返済が完了した際には、想定通りの利益と預金残高の増加が見込めると考えられます。
従いまして、過去苦しかった時期を乗り越える為の債務で、そのおかげで現在の事業があり、利益を出せていると考えてよいものが大半ですので、ポジティブに捉えて頂いて大丈夫かと思います。
また、この原因の場合には、資金繰りが苦しかった当時に赤字が発生しているはずであり、確定申告をしっかり実施していれば、その分が繰越欠損金として税金計算上当期の利益と相殺されますので、当期の利益に対する税額はその分小さくなっているかと思います。一方で、消費税の納税は当期分に対して発生しますので、こちらの支払時期及び見込金額は継続的に確認されることをお勧め致します。
<当期に起因するもの>
次に、預金の増減に対して利益が大きいという事情が当期から発生した場合や当期が特別に大きい場合に該当するものになります。
この場合に、当期から発生した取引により、今後継続して発生が見込まれる『通常取引』と、今期だけ突発的に発生した『特別取引』が想定されますが、それぞれ取扱いがことなりますので、まずは『通常取引』から解説します。
<当期に起因するもの(通常取引)>
通常取引としては、まず、入金サイトが極端に長い取引や仕入又は前払の支払が先行する取引になります。最近は少ないですが、手形での取引のように売上から入金まで3か月以上ある大型案件の場合ですと、決算月に計上した売上は決算書の完成時点でまだ入金されていない可能性もあり、それにもかかわらず売上は決算書に含まれていますので、預金は増加していないにもかかわらず利益が高額になる可能性があります。また、当該売上の為の仕入や外注費等の支払いが既に完了している場合には、入金は無いものの出金だけが生じている形になりますので、体感的には利益と預金増加の乖離が非常に大きく感じる事となります。
しかし、本件については入金が見込まれている形になりますので、時間によって当該差は解消することになる点と、実際会社として利益は出ている形ですので、問題ではありません。しかし、このような取引の金額が大きい場合、納税が出来なかったり、最悪の場合当座の資金繰りがショートしてしまう、いわゆる黒字倒産の原因になりますので、運転資金としての金融機関からの借入や、売上債権を早く現金化するための手形割引やファクタリング、そして、入金を早めてもらう又は外注先等に対して支払を後にしてもらうといった交渉は、常に検討されることをお勧め致します。
当期から始まった取引としては、EC等を中心とした卸売り等で良く発生するケースとしては、多額の在庫の仕入を行った場合も同様の結果となります。仕入に対する支払は完了したものの、該当商品の出荷は未了の場合、仕入れた商品は原価等の経費にはならず、棚卸資産として貸借対照表で出荷までの間処理されますので、支出のみが先行する形になります。
こちらの要因についても、販売を見込んでの仕入であると想定されますので、経営する上で通常に生じ得るものとなります。一方で、この要因により納税が出来なかったり、当座の資金繰りがショートしてしまうわけにはいきませんので、今後見込まれる支出については、細かく把握しておくと共に、それらを見込んだ上での仕入計画を策定する事が必要になります。こちらは、いわゆる資金繰り表を継続的に作成することで経常的に把握が出来るモノとなります。
<当期に起因するもの(特別取引)>
特別に発生した取引としては、経費側と売上側で、
①経費にはならないものの、多額の支出を行った取引
②売上は計上されるものの、入金が無い取引
が想定されます。
①経費にはならないものの、多額の支出を行った取引
例えば、設備投資を自己資金で行った場合、借入金の繰り上げ返済を行った場合等が該当します。こちらに関しては、いずれもご自身の判断で行うものになりますので、預金の増減よりも利益が大きかった場合に、原因として最初に思いつくものになるのではないでしょうか。従いまして、差額に違和感を覚えた場合には、まず上記のような取引が無かったかを思い返して頂くという点と、上記のような取引が前期以前だと考えていたが、実際は当期だったというケースも良くありますので、取引の内容と時期を合わせてご確認頂ければと思います。
②売上は計上されるものの、入金が無い取引
こちらは、上述の『通常取引』で記載した入金サイトが長い取引が単発で発生した場合に該当しますが、それ以外の偶発的な取引も含む事となります。例えば、支払期日に入金の無い得意先が発生した場合や、前期以前に前受金で代金を受け取っていた場合が該当します。
入金をしてもらえない得意先については、会計及び税務上該当する売上を消すには一定の要件が必要ですので、未入金が発生したその会計期間に経費に出来ない場合が多くなっています。したがって、そのような売上がある場合には、利益は増える方向に影響するのに対して預金は増え無い形となり、さらには、入金はないにもかかわらず納税は発生する事となります。 このような自体に対しては、回収に向けた督促や、状況に応じて弁護士に相談する等、未入金の金額と労力から判断した対応が必要になります。また、可能であれば取引開始前の信用調査を行うことで、このような状況になりずらいための対策も有効となっています。
前期全に前受金で既に代金を受け取っていた場合については、当期と逆の体感が前期に発生していたことになりますので、経営上問題はありません。多額の前受金を受け取る場合には、受け取った時は良いのですが、事後的に損をした気分になってしまう点をご認識しておいて頂ければと思います。
<日常的な取引に起因するもの>
こちらの内容は、上記で記載させて頂いたズレの要因の内、常に発生しているものになりますので、要因自体は上記と重複する事となります。その中で、毎年発生するものを認識しておくことで、会計上の利益と預金の増減の差を事前に予測する事も可能になります。
上述の要因の中では、<当期に起因するもの(通常取引)>が日常的に発生が見込まれるものになります。また、<過去に起因するもの>日常敵に発生しますが、解消予定時期を把握する事が出来るものとなります。
<当期に起因するもの(特別に発生した取引)>は日常的には発生しないものとして想定しています。
<まとめ>
上記の要因に分類したうえで、預金には余裕がないにもかかわらず会計上利益が出ている場合、以下の手順で原因を把握することが可能になります。
①<過去に起因するもの>を把握
→一度把握してしまえば、次年度も同様の内容になりますので、解消見込時期と合わせてメモ書きを残して置く事をお勧めします。借入金等は返済予定額や完済時期も明確ですので、非常に分かり易いかと思います。
②<当期に起因するもの(通常取引)>を把握
→例年発生しているものについては、こちらも毎年同様の影響を与えますので、上記と合わせてメモ書きを残しておいていただければ、要因の把握としては容易になります。売掛金が要因の場合であれば、ズレの分が売掛金の残高として貸借対照表に残っていますので、『会社の利益と預金が合わない』シリーズの時と同様に前期末と当期末の売掛金の残高を比較して頂き、残高が増えていればその分利益よりも預金の増加が少ない事となります。
③<当期に起因するもの(特別取引)>を把握
→直近の1年間で発生した取引になりますので、記憶をたどる形でも把握は可能かと思います。
その上で、重要なポイントとしては、要因を把握したうえで対策を検討する事になります。利益に対して預金の増加が小さい場合、事業としては黒字でも資金がショートしてしまう黒字倒産のリスクがあります。
そこで、資金繰り計画を策定の上、資金の状況を把握しておくことが重要になります。それには、売上や利益の月別の計画を策定して、それに、上記で把握した利益と預金残高増減のズレを加筆する事で、預金残高の見込数値を算出する事が可能になります。その上で、『特別取引』で記載したような偶発的な事象も起きうるのが経営ですので、資金が心もとない時期が見込まれるようでしたら、取引先との入金出金サイトの交渉、運転資金の借入、借入金のリスケ等、対策を早目から検討しておくことが安定した事業継続に重要となります。
資金繰り計画と聞くと、難しそうであったり、時間が掛かりそうという方も多いかと思いますが、基本的なものは会計の数値から簡単に作成する事が可能です。
よろしければ、別シリーズ『簡単、出力CSVで資金繰り表』もご覧いただけますと具体的イメージを持っていただけるのではないかと思います。
リンク 簡単、出力CSVで資金繰り表